Mar-4-2000

Story No207:物欲


「もう三月だね」
「もうすぐ四月ですね」
「そうなると、新人が入ってくるね」
「新人かぁ、懐かしい響きだね」
「二十年くらい前ですよね」
「失礼な!まだ五、六年前の出来事だよ」
「そうでしたっけ?」
「そんなにおじさんじゃないから」
「顔はおっさんくさいですけどね」
「だーから、話が進まないからやめようよ。それより、新人の時ってどうだった?」
「一人暮らしを始めたので、不便だった思い出がありますね」
「だよね。なにせ、電気機器が何もなかった」
「寮だけに、必要最低限の生活はできるから、親にも買ってもらえなかった」
「テレビもラジオもコンポもなかった」
「そして君には彼女もいなかった」
「うるさい!」
「今もいない」
「黙れ!」
「これからもずっといない」
「決めつけるなよ!」
「まぁそれは仕方のないこととして、一番必要だと思ったものって何でした?」
「仕方なくはないけど、とりあえず答えはコンポかな」
「ミニコンですね」
「そう。ミッキーの彼女に心理的抑圧を受けているわけじゃないよ」
「は?」
「ミニーコンプレックス。略してミニコン。ぷぷぷ」
「……」
「何黙ってるんだよ!」
「……もぐもぐ」
「何食ってんだよ!」
「…乾燥イモ。いや、これがですね。茨城で行われる勝田マラソンに参加すると、もらえるんです。茨城名産品ということもありますが、“完走”に引っ掛けて“完走イモ”なんてパッケージに書いてあるんですよ。ひどいダジャレですよね。…まぁ、誰かさんが言ったダジャレよりよっぽどマシだと思いますけど」
「あぁ、悪かった。悪うござんした」
「それで、話を戻しますけど、給料やらボーナスやらでだんだん設備を充実させていくのが楽しいんですよね」
「そうそう」
「テレビを買いましたね」
「冷蔵庫も買った」
「パソコンも購入」
「もちろん、コンポも買ったよ」
「そしてマリファナを買いつつ」
「麻薬に手を出すな!」
「コカイン、ヘロイン、LSD」
「そんなにやってたのかよ!」
「もちろんスピードも」
「逮捕される前にやめといた方がいいぞ」
「あ、ヒトエだけは解放しましたから」
「そっちのスピードかよ!」
「不細工なんだもの」
「不細工とか関係ねぇよ。誘拐だろ、それは。他の三人も解放してやれよ」
「そんなこんなでいろいろ手に入れたら、最近はすっかり物欲がなくなってしまいました」
「それはそうだね。もう、欲しいものって何もないなぁ」
「ほしいものランキングで言うと、どんな感じですか?」
「去年は、一位がDVDプレーヤー、二位がノートパソコンだったけど、どっちも買っちゃたからなぁ。強いて言えば、一位が大きなフラットテレビ、二位が掃除機かな?」
「ぶっぶー、はずれ」
「はずれって何だよ!」
「一位は茨城産のものに決まってます」
「は?」
「もぐもぐ、やっぱり旨いですよ。茨城のは。干しイモのランキング一位です」
 Story No207 

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